「ただいま……」
都内にあるマンションの1室に帰宅するひとりの少女。
整った顔立ち。髪はボブほど。
セーラ服を身にまとい、靴を脱いで揃え置く。
彼女の帰宅のセリフに帰ってくる言葉はない。
1LDKのその1室。
あまり生活感の感じられない綺麗な部屋。
机とテレビが置かれたリビングに入り、机の上に置かれたテレビのリモコンを操作してテレビをつけた。
テレビ画面には無機質な口調で女性キャスターがニュースが読み上げている姿。
…どうやら、都内のどこかで爆発テロがあったらしい。
しかし、彼女はそんなニュースに興味はない。
吉田蛍
無表情であるのにも関わらず、その見た目はアイドルになっていてもおかしくはないほど。
事実、彼女が街を歩けばスカウトの声がかからない日はない。
テレビから流れるニュースを聞き流し、冷蔵庫から【おいしい水】と書かれたペットボトルを取り出す。
可愛い猫の絵のコップにそれを注ぎ、口を付ける。
ひんやりと冷たいそれが彼女の喉を潤した。
どこか体力が回復するような気もするが…それは気のせいだろう。
コップを机に置くとピンポーンっと部屋のインターホンが鳴った。
『宅配便ですー、受け取りをお願いしますー』
と、カメラ付きのインターホンに反応がある。
セーラー服姿のまま、玄関へと向かい、宅急便の配達員から厚めの封筒と薄めの封筒をそれぞれ1部づつ受け取る。
配達員は実に気だるそうに処理し『あざーしたー』と言って去っていった。
その態度に吉田は気にすることなく、玄関の扉を閉め、手にとった封筒の裏面を見る。
厚めの封筒の裏には彼女の叔父の名前が書かれている。
リビングに戻りながら興味なさそうに封筒を開ける。
……中には帯のついた札束。
「……私にお金は必要ないのに」
はぁ…っとため息をつきつつ右手で厚めの封筒をリビングの机の上へと置く。
続いて、左手に持った封筒に手をかける。
【BR】と紅く封のされたその封筒へ…。
- 1