1話

とある島の北部にある廃墟のような建物。
コンクリート造りの建物の周りには蔦が伸び、放棄されて時間が経っているように見える。
しかし、その建物の周りには堀のようなものが掘られ、さらには所々で丸太やら鉄線やらでバリケードのようなものが築かれていた。

その建物の屋上へと向かうひとりの男。
黒髪に力強い意志を感じる眼差し。
迷彩柄の服装に腰にはホルスター。
よく見るとそのホルスターは改造されているのか拳銃を収めるようには出来ていない。
改造されたそれには拳にはめるタイプの武器、ナックルダスターが形状の違うものが2個備わっていた。
そして、その人物が屋上のドアノブにかけるその手には無数の傷。


「ここにいたのか」


屋上の扉をあけ、その先にいる人物へと声をかける。

【鏡 聊爾(かがみ りょうじ)】

 

 

 

 

 


『あら、あんたもここ来たの?』


夕日を背に、そのかけられた言葉に振り返りながら答える女。
女の服装も迷彩柄の服装。
その肩からアサルトライフルを下げている。
M16アサルトライフルに見えるがそうではない。
通常のそれよりもバレルは短く、マガジンもサドル型ドラムマガジンが付けられている。
本来の構造よりも大きく異なり、その銃の反動はかなり大きい。
通称パトリオットと呼ばれる暴れ馬のような銃を愛銃として携帯する…

 

【明石 涼子(あかし りょうこ)】

 

 

 


「何をしている?」

鏡は無表情のまま明石へと問う。


『…特にはなにも、ただ私はここが好きなの』


ひと呼吸置いて、鏡へと振り返ることなく屋上から夕日照らされ岸壁にぶつかる波飛沫がキラキラと光るその景色を見ながら明石は答える。
それと同時に明石の綺麗な髪を風がなびかせた。


「何もない、いつもと見える風景も同じなのにか?」


鏡は明石の姿を見つつ周りを見渡す。


『違うよ』


鏡の続く問いには明石は間を置かず鏡へと視線を向けた。


『一秒として同じ景色はないよ。空気もなにもかもね』


明石はそう言って鏡へ微笑む。


『まぁ、あんたにはわかんないかなー』


鏡はその明石へ言葉を返さない。


『…で、なんのよう? 交代の時間はまだでしょ?』


明石は視線を再び鏡から屋上から見える風景へと戻した。
その姿を見た鏡はため息混じりに答える。


「そろそろ時間だろ、今日が何の日か忘れたのか?」


その言葉に、明石は『ぁ……』と小さく何かに気づいたように言葉を漏らす。
そして次の瞬間には鏡を横をすり抜け屋上のドアへと駆けていく。


『鏡! 早く行くよ!!』


明石の呼びかけに「ぉぃ!」っと声をかけようとしたが鏡の視線に明石の姿はもうない。
かけ下りていく明石の靴音が遠くになっていくのがわずかに分かる。


「…全くあいつは…」


扉から屋上から見える風景に鏡は視線を動かした。
…たしかに、明石がいたさっきまでとそこから見える景色が変わっている。

夕日のきれいな赤焼けから薄暗く空に影が見え始めていた。


「…いくか」


腰の武器に少し手を触れたのち、鏡も屋上から下りていく。

 

 

 

 

二人には使命がある。
二人はあの【ワイルドセブン】の一員なのだから。

0話

早朝。
うっすらと朝日が窓から部屋を照らす。

白を基調としたシンプルな部屋。


パタンッ


という音をさせ、その部屋の扉が閉まる。
その奥からはトントンッと階段を降りる音。


窓の外からは小鳥たちの囀る音。


何気ない日常。
そう本当に何気ない毎日来る日常。


いや、その日は1箇所だけ違うところがあった。


ベッドの脇に置かれた勉強机。
そこに置かれているパソコン。


その画面には、白を基調としたこの部屋だからこそ目立つ画面。
黒を基調とした背景に紅く血のような色で綴られた文字。


その画面は何も語らずただそこにあった。

 

 

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